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シーマスター

◆序文

 なにを隠そう、オメガ・シーマスターは素晴らしい時計です。

 私共で扱うことの多いシーマスターは1940年代末から1970年初頭にかけてのものですが、この時代の製品は工業製品としての良し悪しが語られました。ファション的、商業的な側面からの語りは現在ほどでは無かったでしょう。高性能・ 高機能・高品質な時計か否かといったところです。それは硬く錆びにくい素材の防水ケース、機能性のあるブレスレット、上質なヘアライン仕上げのダイアル、そして高精度で耐久性のあるムーブメントでした。オメガは全てが一流であり、自社生産されてきました。その当たり前に良いこと(=工業生産品として良い品物であること)は、製造から半世紀以上経た今であっても日常的に使っているという、目に見えるかたちとして表れています。

 人々がその時計を「素晴らしい」かどうかを論じる際にはその人それぞれの基準があり、それをもって語られる場合が多くあります。しかしこれらが新製品として販売された頃にそれを手にした人や製造販売かかわった人々がまだご存命な現時点では、評価を断じることは難しいです。現代美術史になぞらえるならば「生み出されてから100年の風雪を耐えないとその作品の真の評価というものは定まらない 」と言われるように。 それほど遠くはない将来、当時のオメガを知る人がいなくなった世界では、今以上に高評価を得ていることは間違いないでしょう。本コラムで少しでもそれを感じていただければ、それに優る喜びはありません。

2020年4月20日 柴田励央

◆外装パーツ

  アンティークウオッチをご購入する際の決め手とはなんでしょうか。
それは見た目です。見た目が気に入らなければ他のいかなる条件が満点だったとしても、その時計を選ぶことはありえません。誰も格好悪い時計をわざわざ着けようとは思わないでしょう。

 ダイアルは時計という工業製品に宿る工芸品です。ダイアルは基本的に直線と円で構成されています。デザインが良いというのはその2つの組み合わせと大小長短のバランスが良いという事です。ものづくりには作る技があります。質感が良いというのはその作る技が良いという事です。今回紹介させていただくダイアルは全て、手にとって良いと感じる雰囲気の良さがあります。このハイ・レベルな美しさはまさに工芸品であり、ただ時間が読めるだけの盤ではありません。オメガが長年培ってきた技法を存分に用いた成果の数々なのです。デザインと技法、そのどちらかが欠けたり不足している様では工芸品とは呼べません。

  デザインと技による外装パーツ、最先端で開発されたムーブメント、これらが極めて高いレベルでまとまっていたのがこの時代のオメガの時計です。もしお気に入りのオメガに出会えたのならば、それはオメガの美が琴線に触れ、オメガの価値があなたに伝わったということに他なりません。本項はそういった方が一人でも増えますようカスタマーサービスの大谷が著しました。あなたの1本を見つけることができたならば幸いです。

<ダイアル>

ホワイト・ホワイト

 懐中時計から腕時計に需要が変わる頃、割れない文字盤が求められた。電着塗装によるものでマットな質感。1950年代まではスタンダードなダイアル。シンプルでプレーン、そつがなく使いやすい。装飾的な要素がいっさい見られないため、インデックスのデザインや配置が全体の印象を決定づける。これは1960年頃に採用した縦と横のクロスラインがいいアクセントになっている。半世紀以上経過した現在では同じ状態のものは存在せず、一個一個が異なるエイジングを見せていることも楽しみの一つ。


サンレイダイアル・サンレイ

 ダイアルの中心から放射状に細かい線が広がっていく様なパターンをサンレイまたはサンバーストと呼ぶ。1950年代から初まり1960年代に全盛。腕時計の黄金期に最も花を咲かせたダイアルである。シルクのような滑らかさがあり、上品な質感を持つ。ヘアラインはつや消しの効果がるため、読時の視認性が良い。各社が採用しており現在でも製造されるが、この時代のオメガだからこそのラウンドした盤面はより雰囲気が良い。バーインデックス、ドルフィンハンドとの組み合わせはベストオブベスト。もし時計を一本しか所有できないとするならばこれです。

ツートーン・ツートーン

 名前の通り、メインとなるカラーを2色使ったもの。基本的にはダイアル外周と内周で色分けされている。年式が新しくなるにつれて2色の濃淡の差は少なくなっていくのが特徴。1950年代後半に多用されたことから、500系ムーブメントの採用例が目立つ。適度な厚みを備えたケースと組み合わされてノスタルジックな雰囲気を醸し出す。これを着けこなせる方は相当なセンスの持ち主でしょう。

ブラックギルト・ブラックギルト

 艶のあるブラックミラー盤面に記載の文字やミニッツラインは、全て抜き文字で金色の下地を出している。拡大鏡で観察すると、ブラック盤面よりゴールド文字が一段低くなっているのが分かる。ギルトとは直訳すると金箔の意味で、その通りゴールドレターがキラキラと光を反射する。ブラックダイアルを作る際に1960年代まで用いられていた手法で、それ以降はプリントレターに変わる。この様に趣のあるエイジングした個体はパティナやブラウン化しているなどと表現されており玄人好みの逸品。

縦ヘアライン・縦ヘアライン

  線の細かさはサンレイと同じだが線の方向が縦のみ。サンレイ同様のシルキー感だが、線の方向だけでこんなに変わるのかというほどの、ドレッシーな表情を作り出す。これは中央にオニキスブラックのないソリッドなインデックスとバーハンドのコンビネーション。シンプルさを重視しつつもミニマルな構成では不足がある、そんな方に着けていただきたい。

ストライプ・ストライプ

 縦ヘアラインとは違いはっきりと目立つラインを用いており、際立った個性を主張。色でなく模様で差をつけたい、そんなニーズにも応じるオメガの懐の広さ。一時期にしか生産されなかった知る人ぞ知るレアなダイアル。

パウダーホワイト・パウダーホワイト

 パウダーホワイトはあまりない。絵の具の白のようなまっさらな、マットな白。時計をよくご存知の方でもこのダイアルを知らずに目にしたならば、得体のしれない違和感を感じる事でしょう。1960年前後の短かい期間に製造された。

ギョシェ・ギョシェ
 表面が格子柄で斜めに仕切られているものをギョシェと呼ぶ。装飾だと思われがちだが、光を反射しないので時計をパッと見たときに時間を読みやすい効果を生む。古くは1940年代からある伝統技法で現代は懐古志向で採用しているメーカーがある。これはホワイトダイアルでブラックもある。ブラックの場合はほとんどがギルトダイアル。

ワッフル・ワッフル
 表面がワッフルのように格子柄で縦横に仕切られているパターン。1950年代にごく少量製造された。これはブラックギルトでホワイトダイアルもある。独特の凹凸模様がおもしろい表情です。

<インデックス>

バー・バー
 1960年代で最もポピュラーなインデックス。この様に面取りされているものが多い。サンレイダイアルとの組み合わせはゴールデンコンビで、上品な雰囲気を作り出す。細長いものが多く、特定の箇所だけデザインやサイズに変化を加えたものもある。現代にいたるまで多くの時計に使われており、普遍的。

砲弾型・砲弾型
 バー以前のポピュラーなインデックスで、1960年代半ばまでが全盛。直線的なところは同じですが、先端がとがっているところがバーと違います。これは中央にエッジのあるマウンテンタイプ。細長いものがほとんどで、クラシカルな印象。12時のみや12、3、6、9時位置を二本束ねて強調ポイントを作る。アンティーク感を味わいたいなら、これ。

アラビア・アラビア
 12個すべてのインデックスがアラビア数字で構成されたもので、オールアラビアとも呼ぶ。腕時計では1940年代から1950年代初頭に流行し、その後は少数派に。これは珍しく1960年代のもので夜光が施されている。フォントによって表情を作り出し、それによっては可愛さとカジュアルさを作り出す。ブレゲ数字は有名で普遍的な物となった。

飛びアラビア・飛びアラビア
 これはアラビアと砲弾型を交互に配置したパターン。12、3、6、9時位置のインデックスがアラビア数字のものが多い。12、2、4、6、8、10時の偶数アラビア数字の物は1950年代に多い。1950年くらいまではギルトやプリントで、それ以降は植字のインデックスとなる。

ダイヤモンドカット・ダイヤモンドカット
 ダイヤモンドのようにインデックスが多面カットされたもの。流通量は少なめ。

プリント・プリント
 アプライトインデックス(植字=文字をかたどったインデックスが植えてある)ではなく、プリントしてあるもの。夜光が乗せてあるタイプはこれ。夜光との組み合わせで視認性の高さを発揮する黒系のダイアルに多く用いられた。現代のカジュアルウオッチに通じるシンプルさがポイント。

くさび・くさび
 バーインデックスに進化する前のデザイン。鋭角な三角形は楔の様で、全てが中央に向かっている。1950年代のオメガはこのマウンテンタイプのくさびを積極的に採用していた。当時のオメガ社の勢いを表現するかの様な、エネルギッシュな表情を作り出す。

<針>

ドルフィン・ドルフィン
 オメガの針はバリエーションが少ない。まるでオメガのアイデンティティーのようにこのドルフィンを採用してきた。読時するときに見るのは先ず針だが、これを変えないというのは非常に興味深い。これはインデックスに合わせてセンターに黒塗料を乗せている。ソリッドのもの、夜光塗料付きがある。1950年代まではラウンドしており、1960年代に入り中央に稜線のあるマウンテンタイプとなった。今となってはヴィンテージらしさが強調される。

ペンシル・ペンシル
 直線的で、ドルフィンよりモダンな印象を与える。インデックスに合わせてセンターに夜光や黒塗料を乗せる。

<ケース>

シーマスター1・シーマスター1型
 1948年のシーマスター誕生の際に登場。全体が鏡面仕上げ。肉厚なラグは頑強で少々の衝撃では歪みが出ない。300系搭載の初期の物は2ピースケースでスクリューバックとスナップバックがある。500系の時代が全盛のケースでこの頃は99%強力防水スナップバック。ノンデイトはref.2846、デイト付きはref.2849である。
550系の時代も製造されたが、徐々に2型に移行していった。ケース径は33.5~34㎜のものが多い。

シーマスター2・シーマスター2型
 実はこのデザインは1955年登場のSeamaster 300 ref.CK2913にルーツを持つ。ラグ側面がケースと一体のラインを構成している。全面は鏡面、側面は縦のヘアライン仕上げ。1型に比べモダンで洗練された印象となった。500系の登場と共にひっそりと産声を上げたが、その頃は1型が看板デザインだった為、ref.2975ref.14744などの生産数は多くない。550系の時代に全盛期を迎え、ref.166.010 168.024は機械式腕時計全盛期における傑作品だ。ケース径は34.5~35㎜が多い。

シーマスター2ジャンボ・ジャンボ
 標準シーマスター2型は35㎜程度だが、デザインはそのままに37~38㎜程度のケース径。
当時のスピードマスター、シーマスター300はストレートラグでref.2867見比べると、ケース形状は極似しており、マニア心をくすぐる。1型のジャンボはref.2992。1型、2型共に3ピースのスクリューバックケース。

ホーンラグ・ホーンラグ
 コンステレーションのグランドラックスを連想させるブルホーンの様なラグ。その形状に機能性はないく、ドレッシーな雰囲気を醸す。ステンレスケースとステンレスに金を被せたゴールドトップケースがある。300系、500系の世代に製造され、デザインに差異はない。

ストレートラグ・ストレートラグ
 1960年代に入り500系が全盛の頃、頑強な作りを売りにしてきた1型や2型に加え、華奢で直線的なラグも製造された。シンプルで細いラグはラグは、スポーティーとは逆のドレッシーな形。ストレートラグは色々とバリエーションがある。DE VILLE とダブルでペットネームが付く頃に流行したデザイン。文字盤も徐々にシンプルな物とのコンビネーションになっていき、ミニマルデザインへと発展していった。

<ブレスレット>

ライスブレス ・ライスブレス
 1960年代定番のブレスレットで「古き良き時代」といった表現がぴったりの、ヴィンテージ感あふれるデザイン。中央5連の連結部分が米粒の様でその様に呼ばれる。無関節のつなぎ目はしなやかに腕にフィットし、また通気性の良さも合わせ持つので装着感が心地よい。

 どのように破損しましても直しながらお使いいただけますように、純正パーツや修理可能な技術がございますのでお困りの方は当店にご相談ください。

キャタピラブレス・キャタピラブレス
 戦車のキャタピラのような直線的なパターンの、スピードマスターや一部のシーマスターに用いられた貴重なもの。スポーティーさを追求するなら必須のブレスレット。

 どのように破損しましても直しながらお使いいただけますように、純正パーツや修理可能な技術がございますのでお困りの方は当店にご相談ください。

 

◆ムーブメント

 普段から多くの機械に触れていると、数十年をかけて製品がバージョンアップしていく際の発明とも言えるアイデアや工夫に気がつきます。またメーカーそれぞれに開発と発表の歴史がありその結果として現れる特色を見ることができます。本項では当店で長年、修理を手がけてきた技術者久保田が、日々の作業を通して蓄積してきた独自の見解を紹介させていただきます。普段なかなか見る事の無い機械内部を、技術者の目線を通す事で、当時オメガが進化していく様に触れてみてください。将来的にも記事を増やしていきますので、よろしくお願いします。

  本項で紹介するのは、1940年代から1960年代オメガが最も市場で高評価を得、繁栄し名声に富んだ時代に作られたロービートの自動巻ムーブメント3世代です。機械を自社生産しているマニュファクチュールですから独自性が高く装飾も丁寧です。それでいて製造本数が多い為、修理しやすい特徴があります。まさにアンティークの入門としては最もお勧めできる機械です。


  5.5振動のロービートの特徴は、1秒間で動く振り子の往復回数がハイビートに比べて少なく、磨耗が少ないです。またオメガは反発力が弱めのゼンマイを用いている為、より摩耗が少ないように思います。弱めのゼンマイは全巻きとチョイ巻きのトルク変動の差を小さく抑えることができる為、理想的に時間が合います。弱い反発力をロスなく効率よく伝える為に必要な、設計と工作精度、パーツの仕上げがいかに優れていたのかが、オメガの時計から窺い知る事が出来ます。

 自動巻の巻き上げ性能は500系の2世代目では格段に向上しています。そこで行なわれた改良と、さらに薄くなったロービート自動巻の傑作ムーブメント550系の3世代目の改善を解説していきます。

<ロービート 自動巻3世代

Cal.354 OMEGA・300系(バンパー式)

 初の自動巻ムーブメント。巻き上げ効率は理想的ではない。現存の物では個体差があり、また使用環境によっては、補助的にマニュアルで巻き上げてご使用いただく場合も稀にある。ローターが往復運動をする際のコツコツと響く巻き上げ感覚はバンパー式ならでは。プレシーマスター,の過渡期の製品に搭載されていたため、レア度の高い製品と出会えることもあり熱心なファンがいる。クロノメーター仕様は30mmキャリバーと同様の微動緩急機構が採用されているな貴重な品も存在する。 


Cal.501 OMEGA・500系(遊動車式)

 500系(遊動車式) 巻き上げ効率が改善され、しっかりと整備されたものは精度もよく、現行品と同様に使用できる。 開発された1955年頃はノンデイト(日付機能なし)が一般的な時代で、ref.2846 は最もお勧めできる。ref.2849デイト付503はバンパーにはない簡易早送りがある。スモールセコンドの490や491は珍しいムーブメントで、マニアックなスペック。 厚みのあるムーブメントは時計全体をボリュームあるアンティーク感の溢れる雰囲気に。チラネジの付いた天輪は天真が折れた時にも対応しやすい。



Cal.564 OMEGA・550系(切替え車式)

 性能の高さに加え、より薄く改善されたロービートの最高傑作。これ以降のムーブメントは同様の機構が採用されており、自動巻の到達点と言える。厚さに制約を受けないケースデザインは、袖口にスッと入る洗練さ。あらゆるフォーマルなシーンに着けていけるところが素晴らしい。中でもクロノメーター仕様のあるref.166.010 168.024 は完成された時計で最もお勧めしたい。1960年代には時計が一人一台の時代となり、生産数が増した。勿論、状態の善し悪しは吟味しなければならないが、現存するものが多く選択の幅が広い。 日付に加え曜日表示も備えた750系など、その安定した作動でバリエーションが開発された。



改善点1 自動巻上げ中に回るリューズ

 あまり知られていないが、多くの自動巻時計は腕の動きをエネルギーとして受け取る回転錘(カイテンスイ)の動きに合わせて少しずつリュ ーズが回る仕組みになっている。
 完成度の高いとされる、ロレックスの1570や、iwc8541、SEIKO6138、などもこれに該当している。 自動巻だけでなく、手巻きの仕組みが付いている為にそこまで力が伝わってしまうのだ。オメガはだけはこれを重要視して第二世代(500系)から改善が図られ、自動巻の作動にリューズが回転しなくなるのだ。リューズが回転すると、防水性能が下がることや、余計なパワーを生み出すために回転錘を重くする必要が生じる。他社ではあまり気にされていない部分にこだわったオメガの意地を感じる部分である。


300系ではリューズが回る

 こちらの写真では③からの力を受け、④で同時に角穴車とリューズが回ってしまう。オメガも初期の自動巻きでは同様のことが言える。回転錘の動きがコツコツと独特の感覚を伴う。



500系から回らなくなる

 多くのメーカーは70年代に入ってもリューズが回る機構を使い続けているが、オメガに関しては、1955年に販売されたとされる500系で既にリューズの回転が抑えられる。仕組みは自動巻の力が伝わってきても、二重になった角穴車の片側のみ回転し(③部分)、リューズへの回転力は伝わらない。500系は回転錘がまだ厚く、手巻きの機械に自動巻が乗ったような造りになっている。



・550系はさらに薄くなる

 500系同様に、リューズへの回転力が伝わらない。(③部分)それだけでなく、二重になっている角穴車がとても薄くなる。また、歯車の配置を工夫し、自動巻の機構がベースの機械の隙間に入り込むように設計されており、より薄い機械になっている。ポイントになる角穴車は分解すると次のような仕組み。



500系 角穴車の内部(厚くて複雑)

 500系は上下の歯車が軸を押し出すように回る。バネの効いた爪で押しだす仕組み。構造が複雑で厚みが出てしまう。1cmにも満たない小さなパーツに繊細な加工が施されている。見えないところにもかかわらず、仕上がりも綺麗。通常分解せずに修理される事が多い部分。当店では内部の仕組みも把握しており、交換パーツも保持している。



550系 角穴車の内部(薄くシンプル)

 550も軸を押し出す仕組みは変わらない。シルバーの歯車の上の「小さい歯車」が、片方向にしか動かず、逆回転では止まる仕組み。他で見たことの無い機構で、OMEGAが独自に時計に使い始めたのではないかと考えている。歯車の形だけで制御している機構は、薄いだけでなく、バネを使用しなくなる事で、耐磨耗性能も向上している。開発者が他社に頼らずに改良と研究を重ねたことが窺える。



改善点2 より薄い整流機構の開発

  300系から500系でリューズが回らなくなり、巻上効率が大幅に向上し、完成されたかに見えた。しかしまだ改善の余地を求めて、550系へさらなる進化を遂げる。より薄くデザインを妨げない完成された機械はロービートでは最終の自動巻の系統。これ以降の製品にはハイビート化が進む他、自動巻にほぼ同様の仕組みが使われることになる。一見すると分かりにくいが、仕組み自体が大きく変わっているので、それぞれを解説してみたい。

500系(遊動車式)の仕組み

回転錘が逆の動きになっても、整流を担う青い矢印の歯車が横にズレることで、伝達していく歯車が間に一つ増え、同じ方向に回転を整える。切り替わる瞬間、ゼンマイが解けないように、コハゼというパーツが歯車を押さえるように動く。このコハゼの音が、この機械独特のビーズを転がしたような音になる。
定期的にメンテナンスを行わず、オイルが乾き負担が増えてくると④の巻上車が磨耗し易い。

 当店ではこちらのパーツも未使用品を保持しておりますので、お修理の依頼も充分に対応可能です。



550系(切り替え車式)の仕組み

 仕組みが大幅に見直され機能に薄さが加わったのがこちら。整流を担う切り替え車は二重構造で、常に上下が逆の動きをする。どちらか正回転の方のが軸を押し回してゼンマイを巻く力に変える。500系と比べると、バネを使わずに動くため、パーツへの負担も少ない。薄いまま高精度で回転錘の力を伝えていく、大変優れた仕組み。改善の肝になっている切り替え車を分解した写真が下記。



550系切り替え車の内部

 軸パーツを上下から挟んだ銅色の車がどちらが動いても、軸を一定方向に押し出す 。 内部に仕込まれた、非対称の歯を持つ、赤色で囲ったの車は、角穴車の中にも見ることができる。他社では見たことがないオメガならではの機構ではないかと思われる。押し出された軸についたカナ(小さな歯車)が次の歯車へと力を伝える。薄くバネを必要としない為、静かにゼンマイを巻き上げる。


 この切り替え車は、組み上がった状態で流通している一体型のパーツです。当店では分解調整できるよう専用の工具を作成して修理しております。また未使用のパーツも保持おりますので、修理でお困りのお客様はお気軽にご依頼、ご相談ください。



◆機械の種類(参考資料)

自動巻系統Cal. No石数製造開始年機械サイズ(mm)振動数天輪仕様ヒゲ形状秒針緩急針

クロノメーター

日付曜日日付の早送り
300系33017194330.10×4.5519800チラネジ平ヒゲスモール
3331950スモールRG
342194928.10×4.80スモール
3441953スモールスワンネック
351194928.10×5.40センター
353195128.10×6.10センター
3541953センタースワンネック一部
3551953センタースワンネック
500系47120195525.00×5.5019800チラネジセンター特殊な微動緩急
490171956スモールスワンネック
491191956
50120195628.00×5.55センター一部
50320195628.00×6.40往復送り
50524195728.00×5.55
550系55017195927.90×4.5019800スムースセンタースワンネック
551241959
552241959
56017195927.90×5.00往復送り
561241959往復送り
562241959往復送り
563171966
564

24

1966
5651966
751196727.90×5.68
7521967

参考資料...OMEGA SPARE PARTS CATALOGUE
※市場の年代とは1年程度誤差が生じていると思われます。